「後見・保佐」の廃止と新しい補助制度

お世話になっております。
今日は、成年後見人への就任前の打合せをしてきました。
成年後見制度は、認知症などによって判断能力が低下した方の生活や財産を守るために欠かせない制度です。
一方で、実際に制度へ関わってみると、本人の財産を守ることと、本人の自由や希望を尊重することのバランスが非常に難しい制度でもあると感じます。
その成年後見制度について、2026年1月、法制審議会において制度を抜本的に見直す内容の要綱案が取りまとめられました。
その後、改正法案は国会へ提出され、2026年6月17日に成立し、同月24日に公布されています。
したがって、現在は単なる検討案の段階ではなく、将来の制度変更が法律として正式に決まった段階です。
ただし、成年後見制度に関する改正部分は、まだ施行されていません。
改正法の施行までは、現在の「後見・保佐・補助」の制度が引き続き適用されます。
今回は、現在の成年後見制度が抱えている問題と、改正法の施行後に制度がどのように変わるのかをご紹介します。
そもそも成年後見制度とは?
成年後見制度とは、認知症、知的障がい、精神障がいなどにより、物事を判断する能力が十分でない方を法的に支援する制度です。
家庭裁判所によって選任された成年後見人等が、本人の状況に応じて、次のような支援を行います。
・預貯金や生活費の管理
・介護サービスや施設入所の契約
・不動産の管理や売却
・相続手続き
・本人に代わる契約や重要な法律行為
本人の財産を守り、安定した生活を続けられるようにすることが、この制度の目的です。
現在は「後見・保佐・補助」の3種類
現在の法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて、次の3つに分かれています。
後見
判断能力を欠く状態が通常である方を対象とする制度です。
成年後見人には、本人の財産管理や法律行為について、広い範囲の代理権や取消権が認められます。
保佐
判断能力が著しく不十分な方を対象とする制度です。
法律で定められた重要な財産行為について、保佐人の同意が必要になります。
補助
判断能力が不十分な方を対象とする制度です。
本人の同意を前提として、必要な範囲で補助人に同意権や代理権が与えられます。
特に制限が大きいのが「後見」
このうち、後見では成年後見人に広い範囲の代理権や取消権が認められます。
本人の財産を強く保護できる反面、本人が自分で契約したり、お金の使い方を決めたりする自由が大きく制限される場合があります。
成年後見制度が抱えてきた問題
成年後見制度は、本人を守るための重要な制度です。
しかし、これまでの制度や運用については、いくつかの構造的な問題が指摘されてきました。
① 一度始めると簡単には終了できない
現在の制度では、成年後見が開始すると、本人の判断能力が回復しない限り、原則として制度は終了しません。
例えば、不動産の売却や遺産分割など、特定の手続きを行うために成年後見制度を利用した場合でも、その手続きが終わっただけでは後見を終了できません。
当初の目的が達成された後も、成年後見人による財産管理や家庭裁判所への報告が続くことになります。
そのため、本人や家族にとって、費用面や心理面で負担となる場合がありました。
② 本人の生活全体が管理されやすい
特に現在の後見制度では、成年後見人に包括的な代理権が与えられます。
本人の財産を守るためには有効ですが、本人から見れば、
「自分のお金なのに自由に使えない」
「自分のことを自分で決めにくい」
「必要な手続き以外のことまで管理される」
と感じる場合があります。
本人を守るための制度が、結果として本人の権利や自己決定を必要以上に制限しているのではないかという批判がありました。
③ 本人の意思が十分に反映されないことがある
成年後見人等は、本人の生活や財産を守る立場にあります。
しかし、財産を減らさないことや損失を避けることが優先されるあまり、本人がどのような生活を望んでいるのか、何にお金を使いたいのかという希望が後回しになることもあります。
今回の改正は、こうした問題を踏まえ、本人の意思や残されている判断能力をできる限り尊重する方向へ、制度を作り直すものです。
改正後は「補助」に一本化
現在の後見と保佐は廃止される
今回の改正で最も大きく変わるのは、現在の後見と保佐が廃止され、法定後見制度が補助に一本化されることです。
改正後は、本人を後見、保佐、補助のいずれかに分類するのではなく、その人にどのような支援が必要なのかを個別に判断します。
必要な権限だけを個別に設定する
家庭裁判所は、本人の状況に応じて、補助人に次のような権限を与えます。
・特定の契約についての同意権や取消権
・特定の法律行為についての代理権
・本人の財産を守るために必要な権限
つまり、本人の生活全体を一律に管理するのではなく、必要な行為について、必要な範囲だけ支援する制度へ変わります。
判断能力が大きく低下した方も補助制度で支援する
これまで後見の対象となっていた、判断能力を欠く状態が通常である方についても、新しい補助制度の中で支援することになります。
「補助」という名称に一本化されますが、支援が弱くなるという意味ではありません。
本人の状態に応じて、必要な同意権、取消権、代理権などを組み合わせることで、本人の財産や生活を守ります。
新設される「特定補助人」とは?
特に手厚い財産保護が必要な場合の制度
判断能力を欠く状態が通常であり、本人の財産を特に保護する必要がある場合には、「特定補助人」を付ける制度が新設されます。
家庭裁判所が特定補助人を付ける審判をした場合、本人が行った一定の重要な財産行為について、取り消すことができるようになります。
重要な財産行為が取消しの対象になる
対象となるのは、法律で定められた重要な財産行為です。
例えば、次のような行為が考えられます。
・預金や貯金の預入れ、払戻し
・借金や保証
・不動産その他の重要な財産の取引
・訴訟行為
・贈与や和解
・相続の承認、放棄、遺産分割
・一定の長期間の賃貸借
ただし、食料品や日用品の購入など、通常の日常生活に関する行為は取消しの対象になりません。
特定補助人に包括的な代理権はない
特定補助人が選任されたからといって、現在の成年後見人のような包括的な代理権が当然に与えられるわけではありません。
本人に代わって不動産を売却したり、介護施設との契約をしたりする必要がある場合には、その行為について、別途、家庭裁判所から代理権を付与してもらう必要があります。
本人の権利を守りながら、必要な範囲で財産を保護する仕組みになっています。
権限の全部または一部を取り消せる
改正後の制度では、本人に対する支援の必要性がなくなったと家庭裁判所が認めた場合、同意権、取消権、代理権などの全部または一部を取り消せるようになります。
本人に付与されていた権限に関する審判がすべて取り消された場合には、補助開始の審判そのものも取り消されます。
特定の手続きだけの利用がしやすくなる
これにより、例えば、次のような目的を限定した利用が、これまでより現実的になると考えられます。
・不動産を売却するために制度を利用する
・遺産分割や相続手続きのために利用する
・預金口座の解約などのために利用する
特定の手続きが終わった後、支援の必要性がなくなれば、制度を終了できる可能性があります。
手続きが終われば自動的に終了するわけではない
もっとも、予定していた手続きが終了すれば、自動的に制度も終了するわけではありません。
制度や権限を終了させるためには、家庭裁判所への申立てが必要です。
家庭裁判所が本人の状況を確認し、「支援の必要がなくなった」と認めた場合に、権限や補助開始の審判が取り消されます。
そのため、最初に予定していた時期に必ず終了できるとは限らない点には注意が必要です。
不正がなくても交代が認められる可能性
現在の制度では、成年後見人等を解任するためには、不正行為、著しい不行跡、その他任務に適しない事情などが必要です。
改正後は、これに加えて、本人の利益のために特に必要がある場合にも、家庭裁判所が補助人を解任できるようになります。
信頼関係や支援方針も判断材料になる
例えば、補助人に明確な不正がなくても、
・本人との信頼関係が大きく損なわれている
・本人や支援者との意思疎通が困難である
・現在の補助人では本人に必要な支援を行えない
・支援方針の調整が難しくなっている
といった事情が考えられます。
補助人を交代させることが本人の利益になると家庭裁判所が判断した場合には、解任が認められる可能性があります。
補助人は本人の意向を把握する
改正法では、補助人が本人の意思を確認し、尊重することについて、これまでより明確な規定が設けられています。
補助人は、本人の心身の状態に応じて、補助事務に関する情報を本人へ提供しなければなりません。
また、本人の話を聴くなどの適切な方法によって、本人の意向を把握するよう努めることが求められます。
財産だけでなく本人の生活も重視する
補助人は、把握した本人の意向を尊重し、本人の心身の状態や生活状況に配慮して職務を行うことになります。
単に財産を減らさないことだけでなく、
「本人がどのような生活をしたいのか」
「本人が何を大切にしているのか」
「本人が何にお金を使いたいのか」
という点も、これまで以上に重視されることになります。
本人への説明義務は明確にされた
改正法では、補助人から本人への情報提供や、本人の意向を把握する義務が明確に定められています。
一方で、補助人が本人の家族や親族に対して、財産状況や支援内容を常に説明、報告しなければならないという一般的な義務は定められていません。
制度の中心はあくまで本人
成年後見制度の中心となるのは、あくまで本人です。
そのため、家族であっても、本人の財産や生活に関する情報が当然にすべて開示されるわけではありません。
親族としては状況が分かりにくいと感じる場面も考えられますが、本人のプライバシーや利益との調整が必要になります。
今後の家庭裁判所の運用や、補助人と親族との連携方法について、注意して見ていく必要があります。
制度を利用する心理的な負担が軽くなる
これまでは、
「一度始めると一生続くかもしれない」
「財産や生活のすべてを管理されるのではないか」
「本人の自由が大きく制限されるのではないか」
という不安から、成年後見制度の利用をためらう方も少なくありませんでした。
改正後は、必要な手続きと必要な権限を個別に選び、必要がなくなれば権限や制度を終了できる仕組みになります。
そのため、成年後見制度を「最後の手段」としてではなく、困っている手続きを解決するための選択肢の一つとして検討しやすくなる可能性があります。
スポット的な支援が現実的になる
例えば、次のような場面での利用が考えられます。
・認知症になった親が所有する空き家を売却したい
・遺産分割の途中で相続人の判断能力に不安が生じた
・本人名義の預金口座を解約する必要がある
・介護施設への入所契約を行う必要がある
必要な手続きについてだけ補助人に代理権を与え、手続き終了後に制度を終了するという利用方法が、これまでより現実的になります。
申立ての内容は複雑になる可能性もある
一方で、改正後は個別に権限を設定する制度となります。
そのため、申立ての段階で、次のような点を具体的に整理する必要があります。
・本人が何に困っているのか
・どの行為に同意権や取消権が必要なのか
・どの手続きについて代理権が必要なのか
・どの範囲まで財産保護が必要なのか
・支援をどの時点まで続ける必要があるのか
制度が柔軟になる一方で、申立てや支援内容の設計は、現在より複雑になる可能性があります。
現在はまだ現行制度が適用される
改正法は2026年6月24日に公布されていますが、成年後見制度に関する改正部分は、まだ施行されていません。
新制度が施行されるまでは、現在の「後見・保佐・補助」の3類型が引き続き適用されます。
具体的な運用は今後整備される
今後は、新制度の施行に向けて、次のような実務上の取扱いが整備されると考えられます。
・家庭裁判所への申立書類
・医師の診断書や鑑定の方法
・補助人に付与する権限の定め方
・補助人の事務報告の方法
・補助人の報酬の考え方
・現在の後見、保佐制度からの移行方法
法律の内容だけでなく、家庭裁判所における具体的な運用にも注目する必要があります。
まとめ
今回の改正は、成年後見制度の名称や手続きを少し変更するだけのものではありません。
現在の後見・保佐・補助という3類型を廃止し、本人に必要な支援を個別に組み立てる補助制度へ一本化する、制度の根本的な見直しです。
主な変更点は、次のとおりです。
・後見と保佐を廃止し、補助制度へ一本化する
・本人に必要な範囲で同意権、取消権、代理権を設定する
・判断能力を欠く方の財産を守る特定補助人制度を新設する
・必要がなくなった権限や制度を終了できるようにする
・本人の利益のために必要な場合、補助人を交代できるようにする
・本人への情報提供と本人の意向の尊重を明確にする
制度が柔軟になり、特定の手続きだけに利用しやすくなる一方で、本人に必要な支援内容を個別に設計する必要があるため、申立てや実務は複雑になる可能性もあります。
成年後見制度が、本人の財産を守るだけでなく、本人の意思や希望する生活を、より尊重できる制度として運用されることを期待したいと思います。
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