相続法の改正について(民法改正)
お世話になっております。
超高齢化社会や相続トラブルなど環境の変化に対応するため2018年7月に約40年ぶりに民法の相続に関する規定部分(相続法)が改正されました。
今回は相続法の改正でどう変わったのか、大きく変わったポイントをご説明させていただきます。
目次
自筆証書遺言の方式
自筆証書遺言の方式自筆証書遺言とは遺言者が自分で書く遺言書のことであり、改正前までは自筆証書遺言は遺言書の本文を含め財産目録も全て手書きで作成しなければ無効とされていました。今回の改正でこの方式が緩和されました。
●緩和前
本文だけでなく財産目録も全て手書きする必要があり、パソコンで出力して印刷したものを添付することができませんでした。
●緩和後
今回の改正で自筆証書遺言のうち財産目録はパソコンで作成できるようになりました。他には不動産の登記事項証明書の写しや預貯金の通帳のコピーを添付することができます。
※ただし、遺言書の「本文」については手書きでなければなりません。
自筆証書遺言書保管制度の新設
自筆証書遺言の保管制度とは?制度新設前と新設後の違いについて。
●新設前
自筆証書遺言は自分で作成するだけでなく、原則として自分で保管もしなければならず主に自宅の机や仏壇の中などに保管され、紛失・変造の恐れがあり、さらに家庭裁判所の検認の手続きも必要となり使いづらいものでした。
●新設後
今までのリスクを鑑み、自筆証書遺言を法務局で預かってもらえるようになりました。
遺言者が亡くなった後、相続人や受遺者は法務局に遺言が保管されているか調べる「遺言書保管事実証明書」や「遺言書情報証明書」の交付請求ができ、また、法務局は遺言書情報証明書を交付すると他の相続人に遺言を保管していることを通知するシステムが新設されました。
法務局が保管していたものなので家庭裁判所の検認も不要です。
自筆証書遺言の保管制度については別の投稿で詳しく説明をしているので、よければ併せて読んでみてください!自筆証書遺言書保管制度について
配偶者居住権の新設
被相続人(亡くなった方)の配偶者が被相続人の所有する建物に居住していた場合、その建物に住み続けることができる権利が新設されました。
●新設前
改正前の相続は、被相続人に配偶者と子がいるとき、建物と現金は合算してから分配することになります。つまり配偶者が建物を相続する場合は建物の金額分を現金から引くことになるので配偶者の現金の取り分が減る結果となっていました。
《例》
相続人:配偶者+子
⇓
遺産:建物1,000万円+現金2,000万円=3,000万円
⇓
取り分
配偶者(建物1,000万円+現金500万円)、子(現金1,500万円)
●新設後
改正後は居住用建物を所有権と居住権に分けて相続することで、たとえ他の相続人が自宅の所有権を得たとしても、配偶者は自宅に家賃を支払う必要なく住み続けることができるようになりました。
その他にも配偶者が遺産分割協議が成立するまでの間、自宅に住み続けられる「配偶者短期居住権」も新設されています。
《例》
相続人:配偶者+子
⇓
遺産:建物1,000万円+現金2,000万円=3,000万円
⇓
取り分
配偶者(建物・配偶者居住権500万円+現金1,000万円)
子(建物・負担付き所有権500万円+現金1,000万円)
居住用不動産の生前贈与に優遇措置
婚姻期間20年以上の夫婦間で、配偶者に自宅を生前贈与または遺言書によって遺贈した場合、遺産分割から除外できる優遇措置が取られるようになりました。
●改正前
これまでは、被相続人の配偶者が住宅を生前贈与した場合、これまでは相続財産の先渡しを受けたものとして、遺産分割時に特別受益として計算に入れなければなりませんでした。これを「持ち戻し」と言います。
《例》
被相続人が配偶者に建物(1,000万円)を生前贈与
⇓
相続人:配偶者+子
⇓
遺産:建物(持ち戻し分)1,000万円+現金2,000万円=3,000万円
⇓
取り分
配偶者(建物1,000万円+現金500万円)、子(現金1,500万円)
●改正後
今回の改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦間で自宅を生前贈与又は遺贈した場合、被相続人の「持ち戻しの免除」の意思表示があったものとして配偶者を優遇することができるようになりました。
配偶者は生前贈与の分を含めて、より多くの財産を取得できることになります。
《例》
被相続人が配偶者に建物(1,000万円)を生前贈与
⇓
相続人:配偶者+子
⇓
遺産:現金2,000万円 ※建物1,000万円は贈与済
⇓
取り分
配偶者(建物1,000万円+現金1,000万円)、子(現金1,000万円)
預貯金払戻し制度の新
被相続人の凍結された口座から預貯金の一部の払い戻しを受けることができるようになりました。
●新設前
これまでは被相続人の預貯金口座は、被相続人の死亡の時点で凍結されてしまい遺産分割協議が終わるまでお金を引き出すことはできませんでした。
そのため被相続人の葬儀を行うための費用をどこかから調達しなければなりませんでした。
●新設後
改正により被相続人の葬儀や被相続人の借金を返済を行う相続人は、一定額までは単独で被相続人の預貯金の払い戻しを受けることができるようになりました。
※払戻し金額には上限があり、一金融機関あたり口座残高の法定相続分の3分の1までとなります(金融機関ごとに上限150万円まで)。
遺産分割前の財産処分について
相続開始後、遺産分割前に共同相続人の一人が財産を使い込んだ場合に、生ずる不公平を是正する方策を設けました。
●改正前
被相続人の預貯金口座から共同相続人の一人が勝手に現金を引き出してしまった場合、その分を遺産に組み戻すには引き出した相続人も含め相続人全員の同意が必要でした。しかし、同意を得ることは現実的ではなく、民事訴訟で不当利得返還請求などをする必要がありました。
《例》
子(兄)が勝手に預貯金1,000万円を引き出し
⇓
相続人:兄(相続分1/2)+弟(相続分1/2)
⇓
遺産:現金3,000万円-1,000万円(勝手に引き出した分)=2,000万円
⇓
取り分
兄(勝手に引き出した1,000万円+現金1,000万円)
弟(現金1,000万円)
●改正後
改正により共同相続人間の不公平を是正するため、勝手に引き出した相続人の同意なく、他の相続人全員の同意により、処分された財産を遺産分割時に存在しているものとして遺産分割できるようになりました。
《例》
子(兄)が勝手に預貯金1,000万円を引き出し
⇓
相続人:兄(相続分1/2)+弟(相続分1/2)
⇓
遺産:現金3,000万円(勝手な引き出しはなかったものとする)
⇓
取り分
兄(現金1,500万円-勝手に引き出した1,000万円=500万円)
弟(現金1,500万円)
遺留分制度の見直し
遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障される遺産取得分のこと。
●改正前
共同相続人の1人が不動産などを相続した場合に、預貯金などの現金と比べ不動産が高額の場合、他の相続人は建物を共有する形で遺留分を取得していました。
《例》
被相続人は会社を経営(配偶者は既に死亡)
⇓
相続人:兄(相続分1/2)+弟(相続分1/2)
⇓
兄は会社の経営を手伝っていたため、そのまま会社を引き継いだ。
⇓
取り分:兄(会社の不動産1億円)、弟(現金1,000万円)
⇓
弟が遺留分減殺請求権を行使すると会社の不動産の一部が共有状態(トラブルが起こりやすい状態)になる
●改正後
しかし、不動産の共有はトラブルの元なので、遺留分を侵害された場合に遺留分侵害額相当の金銭を請求できるようになりました。(呼び名を遺留分侵害額請求に変更)
《例》
被相続人は会社を経営(配偶者は既に死亡)
⇓
相続人:兄(相続分1/2)+弟(相続分1/2)
⇓
兄は会社の経営を手伝っていたため、そのまま会社を引き継いだ。
⇓
取り分:兄(会社の不動産1億円)、弟(現金1,000万円)
⇓
弟が遺留分侵害額請求により現金だけを請求
弟(1億円+1,000万円)×1/2(遺留分の割合)×1/2(法定相続割合)-1,000万円(弟が取得した預貯金)=弟は兄に1,750万円を請求できる
特別の寄与の制度の新設
寄与とは生前に被相続人に対して、介護などの貢献をすることです。例えば被相続人に介護が必要になった場合家族が無償で相当な負担のある介護をしていたとき、その介護は特別な寄与となり遺産から寄与料を請求できる可能性があります。
●改正前
例えば長男の妻が長年にわたり義父の介護を行ってきた場合、義父が死亡したとき相続権ないので相続財産を取得することはできず、全く介護などをしていなかった他の相続人(この場合は長男の兄弟など)が財産を相続することになっていました。
●改正後
長年介護などで貢献をしていた者と貢献をしていなかった他の相続人の不公平を改善するため、遺産分割はこれまでどおり被相続人の子である相続人だけで行いますが、介護をしてきた長男の妻は相続人に対して相応の金銭を請求することができるようになりました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
約40年ぶりの改正で相続に関するルールが大きく変わりました。高齢者社会が進むに現在において、ほとんどの人が何らかの形で相続問題に関わることになるでしょう。そんな身近な法律である相続法の改正は私たち市民の生活に大きな影響を与えます。
これを機に相続法について興味を持っていただけると幸いです。
法務省(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正))